「無茶しすぎですよ」 ホープは溜息をつきながら筒状になった真白な包帯をはらりと解いた。 消毒を終えた、ほどよい筋肉がついたスノウの腕に丁寧に巻きつける。 「悪い悪い」 そう口で言って苦笑いする彼だったが、 ホープが見る限り全く悪そうに思っていないのがスノウらしい。 だが相変わらずへらへら笑っていても、腕は傷だらけだった。 皆が周囲の探索を続けている途中、突然の敵の襲撃に遭ったという。 確か、三つに分かれてチーム行動をしていたはずなのに一人だけ傷を負ったのは何故なのだろう。 同行していたファングに事情を尋ねたが、 「詳しいことは知らねぇよ。ま、あいつは馬鹿だから気にすんな」 と、相変わらず淡々とした納得のいく返事があるだけだった。 その目の前にいる馬鹿――スノウの様子をちらりと横目でうかがうと、 ばっちりと目が合いついついホープは視線を逸らした。 どきり、と心臓が跳ねたことが気付かれていないだろうか。 ヴァニラのチームは未だ戻ってきていなかったため、 先に帰還していたホープが治療をしていたのだった。 こうしてスノウの手当てをするのも何度目のことだろう。 でも、いくら傷だらけになってもこのルシの印は消えることがない。 ――それは、僕も同じだったけれど。 「はい。これで終わりです」 きゅっと包帯を結び、仕上げに魔法を唱える。 大怪我でもなかったし、これなら明日の朝にでもすっかり治っているはずだ。 すると、突然大きなスノウの手がホープの頭の上にポンと置かれた。 何事かと思って見上げると、彼の笑顔が映る。 「ありがとな」 わしゃわしゃと豪快に軽く撫でられて、何だか不思議な気分になる。 こんなことで頭を撫でたり、お礼を言ったりする必要なんてないと思うのに。 やっぱりスノウはただの馬鹿なのかもしれない。 ひとしきり髪をかき乱した後、満足そうにまたスノウが笑った。 少しぐちゃぐちゃになった自分の髪をそっと直してみる。 「それじゃあ、僕は――」 行きますねと言いながら立ちかけた時、 不意にスノウの手がホープの小さな手を掴んだ。 「ホープ」 「何ですか?」 呼びとめる彼の眼差しが瞳を捉えて、そこから動けなくなる。 するとスノウが人差し指で自分の頬をとんとんと叩いた。 「?」 何の事かわからない。 ホープは眉を顰めた。 そんな困惑した気持ちが伝わったのか、スノウがにやりと不敵に笑う。 「キス、してくれよ」 言われた瞬間に、ホープの顔がみるみる赤く染まっていく。 「な、なんで僕がそんなこと!」 掴んでいた手を思いっきり振り払う。 この人はどうしてこうも突拍子もないことを言うんだろう。 ――いつだって、僕を困らせてばかりだ。 大袈裟に反応するホープなどお構いなしに、 スノウはじりじりと詰め寄っていく。 「だって、それが一番の治療薬だろ」 「関係ない。とにかく早く寝てください」 「そんな冷たく言わなくてもいいだろ? 俺、病人なんだぜ」 「病人は病人らしく、大人しくしてなきゃ――」 スノウが近づけばホープが追い返す。 「なぁ、ホープ」 こんな至近距離――耳元で囁かれては居ても立っても居られない。 それに、このままじゃいつまで経ってもスノウはベッドに横にならないだろう。 「わかりました」 ホープが溜息をつきながらスノウをなだめる。 よっしゃあと握り拳を作って喜ぶ彼。 これではどちらが大人なのかわからない。 スノウは背が高いから届かない。 膝をつくと丁度視線が同じ高さになるくらいだろうか。 だから、ホープにせがむ時には必ず膝立ちになる。 ここまで来てしまったら戻れない。 スノウを休ませるためのキスだったら安い物だと思えばいい。 ホープは辺りをきょろきょろと見渡した。 人の気配がないのを確認してから、意を決したようにそっと顔近づけた。 不意に腰に回された腕にどきりとする。 少しかさついた頬。 一瞬触れてからすぐ離れる。 「…ここじゃねぇの?」 咄嗟に自分の唇を指すスノウにホープはむっとした。 「贅沢言わないでください」 スノウの我儘はいつまでも終わらない。 いい加減このままではいけないと思い、 腰に回された腕を引き剥がす。 「じゃあ、今日は言うこと聞いて大人しく寝るとするよ」 両手を上げて降参のポーズ。 頬の熱さはまだ残っていたけれど、ようやく戻れるとホープもほっと溜息をつく。 だが降参していたはずのスノウ腕がぐっとホープの肩を引き寄せた。 「……んっ」 抵抗できないまま唇同士が重なる感覚。 ほんのりと柔らかい感触と、鼻を衝く匂い。 強引なのに優しくて、温かい。 触れ合ったのは一瞬だけ。 名残惜しそうに離れてゆくと、スノウがにやりと笑う。 「ホープ君の熱いキッスも頂いたことだしな」 「っ…スノウ!」 ―――――――――――――― 11章辺りの二人。 じゃれついて子供っぽいスノウにホープが大人の対応だと萌える。 それにしても「キッス」はないだろうと今更思う(笑) TOPへ 戻る