僕がスノウに渡したいと言ったら笑われるだろうか。 そんな事を考えながら加熱したとろとろのチョコレートを混ぜる。 バレンタインは女の子が男の子にチョコを渡すイベントだと昔から聞いているけれど、 最近は同姓同士でもチョコをプレゼントし合うことがあるみたいだ。 どうしてスノウに渡したいと思ったかって? それは本当に単純な気持ち――日頃の感謝をしたいから。 スノウにはいっぱいお世話になっているし、せめて気持ちだけでも伝えることが出来たら。 そう思って僕は今チョコレートの甘い香りに包まれている訳だ。 でも、スノウって甘いもの大丈夫だったっけ。 少し冷ましたチョコレートを小指につけて味見してみる。 もうちょっとビターな方が良いのかな。 チョコレートを型に流しながら考える。 後ろから近づく巨体に気付かないまま――。 「ホープ。何やってんだ?」 「ス、スノウ!」 肩をびくりと震わせて振り返る。 思わずチョコレートを背中で覆い隠すと、 スノウが面白がって横から覗きこんで来た。 「そんな驚くことねぇだろ。 何やら美味そうな匂いがしてな」 鼻をクンクンさせる姿はまるで犬。 どこかにふさふさの耳と尻尾を隠し持っているんじゃないかって疑ってしまう。 大型犬じゃなくて超大型犬の身体がぐっと目の前に迫る。 匂いの正体を嗅ぎあてた途端、ぴたりと動きが止まった。 「チョコか?」 「…うん」 「誰かに渡すのか?」 「…たぶん」 「多分って何だよ。誰かにあげるために作ってるんだろ?」 小さな声で答えると、スノウが歯を見せて笑った。 じっと目を見つめられて問われたら言えるものも言えない。 ましてや――目の前の彼にだなんて。 スノウを考えながら作っていたなんて口が裂けても言えないけれど、 そんな複雑な気持ちをよそに、ただ単に自分をからかって楽しんでいるだけのスノウに ついつい口を尖らせてしまう。 「今、大事な所だからあっち行っててよ」 「…あ、ああ」 ふいと背を向けると、スノウの元気が一気になくなる。 この超大型犬は全部真に受けちゃうものだから本当に困る。 「ホープ。余ったら俺にもくれよな」 「余ったらね」 少し距離を置いたスノウが強請ってくる。 意地の悪い返事しかできなくて、 いつもより勢いのない足音が遠ざかっていくのを聞くとちょっと胸が苦しくなって後悔した。 スノウに喜んで欲しいのに、素直になれない自分に溜息をつく。 流し込んだチョコレートは少し固まり始めていた。 「はい。これ」 「おぉっ! マジでくれんの?」 「スノウ食べたそうだったから」 「悪いな。食い物には目がないもんで」 ぼんやり座り込んでいるスノウに完成品を差し出すと、ぱぁっと顔が明るくなった。 余りものを期待しているスノウだったから、飾り付けは簡素なもの。 簡素というより何より、ただの箱に詰め込んだだけ。 だって、スノウの為に作っていたなんてバレたら恥ずかしいことこの上ない。 もしもバレたりしたら…なんて少しドキドキしながら視線を戻すと、 尻尾が嬉しそうに勢いよく振られているのが見える。 どうやらその心配はいらないみたいだ。 「ありがとな、ホープ」 「どういたしまして」 そう返事して気がつく。 僕が感謝されてどうするんだ。 慌てて姿勢を正してスノウに向き合う。 「い、いつもスノウには助けてもらってるから」 「何だ? 妙に素直じゃねぇか。 それにしても…美味そうなチョコだな!」 「いつもありがとう。スノウ――」 と、真面目に言ってみたが、スノウの耳には届いてないようで、 早速箱を開けてチョコレートを一口放り込んでいた。 興味本位でハート型とか星型を作ってみたけど、 どうやらスノウは形に一切興味がないようで次々と口を運んでいく。 これならわざわざチョコレートを溶かさないで板チョコのままあげればよかったかな。 それよりなにより、自分の言葉が見事に流されている事がちょっと寂しくて、 スノウの横で体育座りになってぼーっと見つめる。 「お前、本命いないのか?」 「………」 不意の質問に何て答えればいいかわからなくなる。 本命にあげるためにチョコレートを作ったわけじゃない。 でも、スノウに為に作りたいと思った。 ――本命とスノウ、何が違うんだろう。 「ホープ?」 「……いないよ、本命」 「何だぁ? その間は。 俺に隠し事するなんて水臭いじゃねぇか」 ニヤニヤ笑いながらスノウが肩を引き寄せた。 相変わらずの馬鹿力だから、体育座りをしたままスノウの胸に倒れ込んでしまう。 「スノウに言ったら全部ばらされるから」 「俺ってそんなに信用ねぇか…?」 「信用がないんじゃないよ」 口が軽い、と言ってしまえばそれまでだけど、そんな簡単なことじゃない。 嬉しい事も怒ってる事も哀しい事も楽しい事も、 全部スノウは誰かと共有したがる。 それがスノウの優しさ、っていうのかな。 「スノウが信頼されすぎなんだ」 「そっか…」 そう呟いて、また一粒チョコレートを口に放り投げた。 ほんのりと甘い香りがするなと思っていたら、 目の前にチョコレートが差し出される。 「ホープ。口開けろ」 「え?」 大きい手の親指と人差し指につままれた小さなチョコレートが迫ってくる。 「ほら、あーん」 「あー…」 言われるままに口を開いてしまう。 放り込まれたチョコレートの甘さが口の中で一気に広がった。 頭上からは楽しそうな声色が聞こえてくる。 「美味いか?」 「…美味しい方だと思う」 「そりゃよかった」 そう笑ってスノウはまたひとつ、自分の口に放り投げた。 口の中に残るハート形のチョコレートが段々小さくなってゆく。 すると、スノウの大きな手のひらがそっと頭を撫でた。 「俺からも、ホープに言わねぇと」 「え…?」 「いつもありがとな。 これからもよろしく頼むぜ。ホープ」 こくりと頷いてから、顔を見られないように背けてしまうと、 優しく頭をぽんぽんと叩いてくれた。 スノウ、こういう所は妙に勘が良いと言うか、空気を読んでいると言うか。 口に出さないで優しく見守ってくれるんだよね。 でも、あとで皆から聞くことになるとは思わなかった。 僕が頬を緩ませないように必死に堪えていることが、 スノウにバレバレだったってことを。 ――――――――――――――――――――――――――― せっかくのバレンタインなので書いてみました。 完璧に突発でしたが勢いと萌えまかせで楽しかった…! あの世界でバレンタインの習慣があるかどうかというツッコミはご遠慮ください(笑) 登場キャラクターはみんなモテモテだったと思う。 ノラのみんなも、聖府のみんなも、ライトさんも人気あるだろうし。 ユージュは何となく隠れファンが多そうで、名乗らないチョコが多そう。 マーキーはむしろスノウにチョコを贈ってそう。「スノウさん! これは俺の気持ちッス!」 甘い物好きスノウ(と勝手に設定)は素直に喜びそうだなぁ〜。 シドは段ボール箱いっぱいにもらいそうだけど「全部食べきれない」ってリグディに押し付けそう。 「俺だってこんなに食えないですよ!」って結局部下たちにおすそ分け。「俺からの情け(義理チョコ)だ!ありがたく受け取れ」 こんな妄想も山ほどありますが、止まらなくなってしまうのでこの辺で。 TOPへ 戻る