無自覚に――とはこういうことだろうか。 「スノウ、邪魔」 そう言われて初めて気付く。 自分の手がホープの頭をぽんぽんと叩いてみたり、 髪をわしゃわしゃと弄っていたりすることに。 「あ…ああ、悪い」 ――いつの間に触ってたんだろ、俺。 自分でも不思議に思って、首をかしげてしまう。 一歩先を行く少年の姿に視線をやる。 歩くたびに揺れる透き通った輝きを持つ、そんなホープの髪はすごく柔らかいと思う。 まるで泡風呂のようなふわふわの感触。 手のひらを包み込むように優しく受け止めてくれる髪は、 くしゃくしゃに乱しても少し整えたらすぐに元に戻る。 だから、知らない間についついまた触りたくなってしまうのだ。 気付かれないようにそっと手を伸ばして、もう一度髪を撫でる。 「…何?」 またまた声色が変わり、その小さな瞳がじっと向けられた。 立ち止まって振り返った少年の顔は、嫌悪を通り越して呆れさえ漂い始めている。 唇を尖らせて見上げる表情。 上目遣いが素直に可愛いと言ったら怒られてしまうだろうから、 スノウはその言葉をぐっとこらえて飲みこんだ。 けれど、指先に伝わる柔らかい感触が名残惜しくて離れられない。 「いや、この髪何か好きだなーって。ついつい触っちまうんだよ」 優しく撫でるように髪を梳くと、 ホープの小さな手がそっと手首を掴んで動きを停止させた。 「触りたいならサッズさんの髪でも触ってればいいのに。 何で僕ばっかり…」 「んー…多分、ホープの髪が一番気持ちいいから」 確かにサッズの髪も触る価値はありそうだけれど、 意外とごわごわしているかもしれないし、そもそもあそこはチョコボのお気に入り空間だ。 下手に手を突っ込んだら何をされるかわからない。 サッズだって大の大人に触られるほど物好きでもないであろうに。 「ホープだから良いんだぜ。俺の手がそう言っている」 と笑うとホープはまたもや小さな溜息をついた。 スノウが触れた場所を、埃を飛ばすように軽くはたく。 「スノウが触るためにあるんじゃない」 キッと睨みつけられる。 こうなったらそろそろ機嫌を直させないと取り返しのつかない事になる。 最近の料理当番はホープだ。 今日の晩飯がちゃんと並べられるようにと、スノウは慌てて身をかがめた。 「そんなことはわーってるって」 ちょっとしたことでもすぐに一喜一憂するホープ。 まだお子様な証拠だろうか。 否――昔の自分に比べたらホープはだいぶ大人びているのはずだろう。 むしろ、今だって時たまホープの方が頼れることも無きにしも非ずだ。 「でもよ、ちょうど良い高さなんだよな〜」 今度は触れないように、ホープの頭の上に手をかざす。 自分の身長からしてホープの頭はちょうど手を伸ばしやすくて、 触りやすい位置にいるのだと念を押す。 これでもものすごい褒め言葉なのだか、ホープはわかってくれるだろうか。 「…スノウが大きいからいけないんだ」 俯きながら唇をきゅっと噛んで呟く。 そういう方向でやってきたか、とスノウはぽりぽりと頬を掻いた。 「お前も大きくなりゃ問題ねぇだろ」 今はまだかなりの差があるけれど、ホープぐらいの年齢は伸び盛りだ。 ああ、でもホープはモコモコミルクソーダが好きじゃないと言っていた。 昔から背を伸ばすにはミルクが最適だと言うから、 小さいころからミルクソーダを飲み過ぎた結果、自分はこんなに成長してしまった。 と、言っても嘘ではないかもしれない。 今度、山ほどのミルクソーダを買って来てやろうと考えてみる。 そんな時、ふと一筋の光が思考を過った。 「あ。でも駄目だな」 「どうして?」 先ほどまでとはぐるり一転、意見がひっくり返ったスノウにホープは思わず問いかけた。 「ホープが俺くらい大きくなっちまったら、ホープじゃなくなるわ」 ホープが自分と同じくらい背が高くなるのを想像できない――といった方が正しいかもしれない。 しかし、このサイズだからホープなんだ、と熱弁しても今の彼には理解できないだろうけれど。 思った通りホープは眉を顰めて息を吐いた。 「…意味分かんないんだけど」 どうやってこの気持ちを説明したらいいかわからない。 自分の中でも整理がつかず、頭を掻いて考えを生み出そうとする。 でも、考えれば考えるほど上手く言葉にまとまらなくて、むかむかと胸が騒いだ。 「だーっ! ったくよ…」 「スノウ?」 「簡単に言えばだな――」 不意に大声を出してむかむかを吹き飛ばす。 下手に考えるより直感で伝えた方が早い。 「無理して背伸びしない。 そのままのお前が好きだってことだよ」 無自覚に――とはこういうことだろうか。 彼の鼓動を少しだけ高鳴らせていたことに、 スノウが気付くのはまだ少し先のことだった。 ――――――――――――――― アルティマニアで身長差公開万歳!記念に突発で(笑) それにしてもあの差は美味しすぎますねハァハァ 47センチって相当あるけれど、お蔭でホープはスノウのコートにすっぽりはまってくれそう。 今後とも体格差ならではのイチャイチャを見せてほしいです。 TOPへ 戻る