首筋に残る少し冷えた指の感触――それは、待ち望んでいた全て。
じれったく指先が肌を滑った。
それだけで、既に心臓が破裂しそうなくらい興奮してしまう。

「はっ……んッ、…」

誰も来ないはずとわかっている。
しかし、もし誰か来てしまったらというスリルに自然と身体が強張ってしまう。
けれど彼の手がリグディの後頭部を支えながら口づけを繰り返し、安堵をもたらす。

軽い音を立てながら、何度も重ねて感触を味わう。
ふたり向かい合わせで立っていたものの、
力が徐々に抜けていくのがわかってリグディは支えを求めた。
何歩か後ろに下がり、机に体重を預けるように手をつく。

戯れの口づけが終わり、レインズの唇が首筋に触れると身体が震えた。
同時に、ぱさり、と机の上の書類が床に散った。
それにつられてレインズ愛用の手袋も落ちた。
雪崩のように次々と床に落ちる光景を視線で追ってみたものの、
それを気に留める暇などないと言わんばかりに唇がリグディの肌に触れ、
思考はすぐさま彼に戻されてしまった。
鎖骨を滑るさらさらとした黒髪の感触がくすぐったい。
そっと手を伸ばして髪を梳くと、レインズが顔を上げて唇を寄せた。

「…ふ、っ……ん…」

重なり合い、触れ合うだけではない。
薄く開いた隙間から熱い舌が入り込み、己のものと絡んで水音を奏でた。

「……ん、ぅ……はッ」

息苦しさに角度を変えて必死に空気を取り入れる。
離れた隙間から、ねっとりと混じった唾液が垂れ落ちて顎を伝い、肌を艶やかに彩った。
呼吸を整えながら瞳をじっと見つめると、吸い込まれそうな感覚に陥る。
微かな恐怖を覚えた頃、細い指がそっとリグディの唇をなぞった。
ゆるりと往復する綺麗な指先。
それは懇願を待つ焦れた行為。
だが、その沈黙の時も一瞬にして終わりを告げる。

「…ちょっ…いきなり…! 待ってくださ…」

彼の片手が器用にリグディのズボンと下着をずり下ろしていた。
抵抗も意味がないものとなり、呆気なくリグディの熱が勢いよく飛び出す。
刺激を待ちわびるように角度を持った陰茎はふるふると震えている。
久々の情事にほとんど制御が効かない状態。
嘘をつかない身体の反応に自嘲する暇もなく、レインズの手のひらがそれを包み込んだ。

「ッ……ん、ぁ…」

「いつから期待していた?」

意地悪げに微笑む表情にリグディは息を呑んだ。
上下に扱く動きは的確な刺激を与える。
ただでさえ興奮しているというのに、これ以上絶頂へ早めないでくれと、
レインズの動きを停止させようとは思ったのだが、身体を支え続ける腕が言う事を聞かない。
もし机から手を外してしまったらそのまま崩れ落ちてしまいかねない。
完全に腰砕け状態の中、リグディは懸命に言葉を紡いで返事をした。

「…ぁっ、…そう…ですね…。
大分…耐えて来たもので、覚えて…んっ」

指先がくりくりと先端を弄ると、身体は素直に反応を示す。
抑えが利かない反応を楽しむかのように、レインズはもどかしい刺激を与えてゆく。

「…そのようだな」

とろりと溢れた先走りが細く白い指に絡みつく。
一瞬手を離してレインズはぺろりとそれを舐めた。

「溢れて止まらないぞ」

快感の証を舐め取るその表情は卑猥そのもの。
それと同時に満たされる仄かな独占欲。
僅かに虚ろなリグディの視線を釘付けにしたまま、再び手を戻し愛撫を再開した。

「ん、ぁ……あぁっ…」

手のひら全体で扱かれると膝の力が抜けていく。
しばらくお預けをくらっていた事もあり、限界はすぐ目の前にやってきている。
瞼を開けていることすらできなくて、ぎゅっと固く瞑った。
そうしないと全て持っていかれてしまいそうな気がしたのだ。
レインズが触れる所に全ての熱が集中して、駆け上がる感覚。
視界が途切れていても、くちゅくちゅと耳に届く音。
快楽に沈む証拠を突きつけられて、こくりと喉が鳴った。
リグディは机を掴んだままの手の力を込めて必死に身体を支え続ける。

「…っ! は…ぁ…くっ……」

「いいのか?」

耳元で囁かれてぞくぞくと震える。
けれど、下半身の熱が思考を溶かせて彼の言葉がしっかりと届かない。

「…ん、ぁ…っく…」

「リグディ。答えろ」

甘い吐息の中に鋭さが交った声にハッとする。

「ぁ……いい、です…、んッ…も…」

「限界、か?」

そう問われると首を何度も振って頷く。
このままでは、せり上がる感覚に耐えきれなくなってしまう。
頭が真っ白になって、何もかもが吹き飛んでしまいそうなその瞬間、
絶妙のタイミングでレインズの指がぐっと根本を締め付けた。

「待て」

「っ、……?」

寸止めを食らったリグディの思考が一瞬狂う。
ここまでしておいて今更我慢させるとは、相変わらず人を弄ぶのが好きなようだ。
そんな事を考えていると、限界寸前の熱に手のひらとは別の感触が伝わった。
それはもう一つの猛った熱――レインズのモノだった。

「なっ…! ぁ…ああっ…」

いつの間にか取り出されたそれがリグディのものと重なる。
驚いている暇もなく彼の手がリグディの陰茎を一緒に掴んだ。
硬くなった熱同士を一緒に扱くと、一層卑猥な音が響き渡った。

「はぁっ、あ…あ、ぁっ…」

どちらから溢れて来たものかわからない、どろりとした液体が猛りを伝って落ちた。
いつの間にかリグディの身体が倒れないようにレインズが背中を支えていたが、
不意に首筋をきつく吸われて、意識をどこへ向けていいかわからなくなる。
うっすらと瞼を開くと深い色を灯した瞳が目の前に映った。
揺るぎない眼差しは、絶頂を迎える許しを告げていた。
心が震えた瞬間、二つの熱を扱き上げる手が素早さを増す。

「…ぁ…ん、くっ……は…ああっ」

喘ぎ声と共に濃い白濁が飛び散った。
重なり合った陰茎から溢れた液体がぱたぱたと床に垂れた。
レインズも若干息が上がり、同じく絶頂を迎えた事を知る。
胸を上下させながら呼吸を繰り返していると、そっと彼の手のひらが差し出された。
扱いていた手――白い肌を汚す、より白い液体がねっとりと付着している。
ちらりと視線を窺うと、変わりない眼差しとぶつかった。
白く濡れた指先が唇をなぞると、リグディは無言で口を開き、そのまま指を口に含んだ。

「ん……ん、ぅ…」

舌で指先を辿り、くちゅりと音を立てながら精液を舐める。
独特のにおいがして眉が歪んだが、それ以上に彼の手を一刻も早く清めたかった。
爪から間接、手のひらまで飛び散った白濁を舌で丹念に拭う。
どちらのものともわからない、混じり合った液体。
時折口の中で指先が動いて舌と絡まる。

「…は、…ふっ……ん、」

やがて指先からは白い液体が消えて透明な唾液に濡れた。
レインズは満足げに目を細め、リグディの身体を反転させる。
そのまま机の上に突っ伏して腰を突き出すような体勢になってしまう。
書類の山が、また落ちた。

「まだ物足りなさそうな顔だな」

楽しげに顔を覗き込んできて、
リグディも思わず口角を上げて微笑んだ。

「…ええ、そうですよ。
あんたもまだ、物足りないでしょう?」

「そう見えるか」

「十分見えますよ…んっ」

これ以上無駄な抵抗は止せと言わんばかりに、リグディの後孔を撫でる。
興奮ですでにひくひくと蠢く入口に、レインズは唾液で濡れた指を挿入した。
一本入れただけでも中はきゅうきゅうときつく締め付ける。

「…ん、ぁ…あっ…」

溢れる声の具合で指を掻き回す。
身体がびくりと跳ねた箇所を突くと腰が揺れ動いてさらに刺激を求める。
だが、何度か抜き差しをしてみたもののなかなか解れない。
人差し指を入れたまま、中指で孔の周りをそっと撫でる。
緊張をほぐすためにリグディの髪を掻き分け、
首筋に優しい口づけを与えながら囁いた。

「力を抜け。これでは入らないだろう」

「あっああ…」

ふっと力が抜けたその僅かな瞬間にレインズは二本目の指を挿入する。
ようやく柔らかく咥えこみ始めたのを感じ、さらにもう一本増やして
三本の指で中をゆっくりと掻き混ぜた。

「…んッ、くぁ……」

上半身を机に支えられていることもあり、
リグディはひたすら自分の中にあるレインズの指を感じていた。
その間にも柔らかく落としてくれる口づけや、
そっと髪を梳いてくれる感触に心がじんと満たされていくのがわかる。

「頃合いのようだな」

「…ぁ、あっ…」

レインズが指を抜くと、解された孔が待ちわびるように疼いていた。
上からくすりと笑みを零すような声が聞こえてから、彼の身体がぐっと近くなる。
再び熱を持ち始めた熱が宛がわれたのだ。

「挿れるぞ」

「…ん、ぁ……ああっ…」

入り込んだ熱の圧迫感。
縋りつくものがなくて、ぐっ両手を握り締めた。
久々の交わりの所為で痛みも多少伴うが、
ここまで来てようやく彼の身体をしっかりと受け入れられる喜びの方が断然大きい。
先ほど一回頂点を極めたとはいえ、熱は再び猛り始めている。
それは自分だけでなく、覆いかぶさった彼もまた同じ。

「……ぁ…あ…んっ…」

ゆっくりと抜き差しを繰り返すレインズに合わせて声が洩れる。
指とは比べ物にならないほどの熱さに全身が疼く。
額の汗が伝って、じんわりと肌を湿らせてゆく。
肌がぶつかる音。ぐちゅぐちゅと交わる音。熱が擦れる音。
全てが支配して、今度こそ完全に意識が吹っ飛びそうになる。

「ん、…ッく…」

微かに耳元に感じる吐息は確かにレインズのもの。
彼も感じてくれているのだと思うと嬉しくなった。
だからつい、口を開いてしまう。

「…興奮、してるんですか?」

この期に及んで笑ってみせると、
うっすら汗ばんだレインズが覗き込み、低く囁いた。

「あまり…私を煽るな」

噛みつくような口づけが与えられ、息もできないほど深く重なった。
同時に腰使いが激しくなって、衝撃でガタガタと机が揺れる。
余裕がなくなった苦しさに眉を寄せた。
それでもひどく満たされていて、夢中になって彼を求めてゆく。

「あっ…あぁ…ッン…」

レインズは腰を打ちつけながら、再び角度を持ちだしたリグディの陰茎を掴んだ。
軽く扱いただけでぐっと硬さが増す。
愛撫を止めようとしない手。
それはもう一度、絶頂を促す合図だ。
肌に吐息を感じながら、導かれるままにリグディは全てを委ねる。

「はっ、ぁ…ああ…っく…」

ひと足早くリグディが絶頂を迎えると、
かすれたレインズの声と共に何度か腰が動く。
だが、中で絶頂を極めないままの彼の熱がずるりと抜けた。
直後、リグディ太腿に精液が飛び散る。
空気と混ざったレインズの熱にもの寂しさを感じながらも、
そのままくたくた身体が揺れ、意識も混濁へと飲みこまれていった。



目が覚めたのは、同じ部屋のソファーの上だった。
慌てて飛び起きて周囲を見渡すと、
レインズは先ほどと同じ位置で同じ様に書類に目を通している。
あの一連の事は夢ではなかったのかと不安に思い、リグディは視線を泳がせた。

「起きたか」

「え…あ、はい」

まだ理解しきれていない頭をポリポリと掻くと、彼はふっと鼻で笑った。

「私ではなく君が仮眠をとってどうする」

「…ぁ…すいません」

その口調ぶりからあれは夢じゃないのだと知る。
若干腰が痛いのもその証拠だ。
だが、いつの間に書類が綺麗に元に戻されていたのだろう。
情事の跡形が全く残されていないのは逆に不安になる。

「准将はいい仮眠になりましたか?」

そう問いかけるとレインズの手が一瞬止まる。
少し考えたような後、目を閉じてうっすらと笑みを浮かべた。

「…ああ。十分な仮眠だ」

その言葉を聞いてリグディは安堵する。
少しでも彼の気持ちが楽になれたら――それで十分なのだ。

「休みたい時は遠慮せずに言ってください」

「それはこちらの台詞だ」

「…そりゃどーも」

そう呟いて空に視線を向ける。
差し込んでくる光は若干赤みを帯びていた。
かなりの時間、眠ってしまっていたようだが、これでは部下たちに何と文句を言われるか。
今から言い訳を考えなければと思考を巡らせる。

「そんじゃ、俺は失礼します」

腰をさすりながらくるりと振り返って、扉へ向かおうとした矢先。

「リグディ」

呼び止められて振り返る。
書類を片手にしたまま何かを投げつけて、リグディは反射的に受け取った。

「持って行け。
これは私ではなく君に必要だ」

手のひらにあったのは先ほど持ってきた栄養ドリンクだ。
飲みかけではないことから、レインズの為に持って来たものだと知る。
だが、散々弄ばれた身体は疲れを訴えており、素直に受け取るのが吉だと思った。

「…ありがたく受け取っておきます」

軽く頭を下げてからリグディは部屋を後にした。
随分と贅沢な休息だったものだと、ぐっと背伸びをしてから、
栄養ドリンクのキャップを開けてごくりと一気に飲み干した。





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二人の初裏ものでしたが…楽しかったです…!その一言に尽きます(笑)
ただ今回は仕事場でもあったし…リグディの身体の事も考えてちょっと自重した方なのかな。
ちょっとそこら辺のせめぎ合いがありつつも、
また二人のいちゃいちゃっぷりを書けたらいいなと思います。







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