1.あと一歩のとなりどうし ――――――――――――――――――――― 気まずい空気。 どうして二人きりになってしまったかはわからないけれど、 交代で見張りをしているからにはこの場を離れるわけにはいかない。 けれど――やっぱりこれはクジ運を恨むべきだろうか。 次の交代までまだまだ時間がありそうだ。 そんな事をぼんやりと考えながら、ごそごそと物音がする隣へと視線を移す。 年がら年中お祭り気分のスノウは今日も今日とて楽しそうだった。 こんな状況にいるのにこの人はどうして笑っていられるんだろう。 大切な人があんなことになっているのに、変わりなく生きていることが不思議だ。 「ホープ、お前も食えよ」 不意に差し出されたのは、ポケットに忍び込ませていたであろう夜食だ。 だが先ほど夕食を食べたばかり。 お腹はまだまだ膨らんだままで食欲は一切ない。 「…いらない」 スノウが近づいてきた分、距離を開けて離れる。 ふいと顔を背けるとスノウは美味いのになぁと呟いた。 言わずとも美味しい事は最初から知っている。 ただ、今はお腹が空いていないだけ。 それを言うのも何だか面倒くさくて無口を貫き通していたら、 スノウは差し出した夜食を手元に戻して、がつがつと食べ始めた。 さっきもあんなに食べていたのに、この人の胃袋はどんなことになっているんだ。 呆れた溜息をついたころには、スノウはすっかり平らげてしまっていた。 二人の間の微妙な距離を、冷たい風が抜けていく。 見張りなどいなくてもいいんじゃないかってくらい、今夜は静かだった。 スノウは何を考えているんだろう。 ――どうせ、明日のご飯の事でも考えているんだろうな。 そう思ってちらりと視線を向けると、スノウはぐっと背伸びをして星空を眺めていた。 その横顔が、あまりにも優しくて一瞬どきりとする。 目を細めているけれど、どこか哀しそうな表情。 一体どんなことを考えているんだろう。 そう思いながら同じように星空を見上げてみる。 じっと見つめていれば、スノウが何を思っているか少しくらいわかるだろうか。 ゆったりと動く星空をぼーっと見つめていると、 段々瞼が重くなってくるのがわかった。 そのうち見上げている事も辛くなって、思わず顔をこっくりとさせてしまう。 「眠いのか?」 「そんなことないです…」 目を擦りながら反論しても説得力はないだろうけれど、言わずにはいられなかった。 そもそも今は見張りの時間だ。 ここで寝てしまっては意味がない。 何度も目を擦りながら、もう一度空を見上げる。 視界がぼやけてきて暗闇の中に星が溶けているみたいだった。 「その割にはさっきから目がぽーっとしてるぞ」 「い、今はちょっとだけ眠いんです」 微妙に開いていた二人の距離を埋めるように、スノウがぐっと近寄った。 「無理すんなって。 俺が見張ってるから安心して眠れよ」 肩を抱かれて一瞬ぱっちりと目が醒める。 ――彼の得意技、不意打ちだ。 「いいです。僕も見張りますから」 「意地張んなくてもいいだろ。 子供はもう寝る時間じゃねぇか」 「子供じゃないって何度言えば…」 キッと睨みつけるとスノウは楽しそうに笑った。 この人が笑うと、胸がもやもやする。 だから膝を抱えたままスノウを背にして座りなおした。 このもやもやが何かはわからない。 短距離走を走り終えて少し息が上がるみたいに、心臓がドキドキしている。 けれど、何故だろう。 スノウが隣にいるだけなのに。 こうしてくっつくいているだけなのに、とても温かく感じられた。 背中を向けるホープの様子に、スノウは気付かれないようにくすりと笑みを零した。 話しかければかけるほど幼い少年は唇を尖らして反抗してくる。 事実、ホープを困らせていることは間違いないのだろうが、 構ってやることを止められないのはすでに本能なのかもしれない。 ホープに一蹴されるのは日常茶飯事になっているが、それもまた面白くて好きだった。 彼と関わっているとノラの仲間たちを思い出させる。 だからこそ、ホープとの仲を簡単にはしたくなかった。 同じ運命――まだ幼い彼にとって重すぎる運命だが。 その運命を背負っていく仲間として、これからも大切にしていきたいと願っている。 少なくともこの気持ちは伝わっているはずだろう。 彼はそれがわからないほど子供じゃない。 この場で頭を撫でてやったらまた怒るだろうなと想像しながら笑っていると、 不意にホープの小さな身体が自分の方へ倒れ込んだ。 「ホープ?」 顔を覗き込むと先ほどの険しい表情から一変し、 穏やかな寝顔がそこにあった。 「ったく…ちゃっかり眠ってやがる」 小さく寝息を立てながら眠るホープを優しく見つめ、 額にかかった前髪をそっと撫でる。 このままでは夜風に当たって身体を冷やしてしまうだろう。 先ほどライトニングから渡された膝かけをホープの肩に掛ける。 見張りの番だが、疲れているだろうから休ませてやれと彼女は言っていた。 少し厚手の生地から、不器用な優しさが伝わってきた。 穏やかな呼吸が肌に感じられ、 すっかり安心しきった寝顔が浮かび思わず目を細める。 スノウはもう一度ゆっくりと移動する天を眺め、 この穏やかな時間が少しでも長く続く様にと、密かに星に祈った。 ―――――――――――――――――――――――― まだちょっと警戒している時の二人。 スノウはがつがつ大食いだといいな。 それにしてもライトニング抜かりなくてさすがだと思います(笑) TOPへ 戻る