消化の良いものを作ってあげようと思った。 傷が深いようだったし、まだ寝込んでいるみたいだから、 どうしようかと考えながら台所に立つ。 フライパンやお皿にうっすらと埃が被っている。 ――父さん、使っていなかったのかな。 ただでさえ料理をする人ではなかったけれど、 母さんと僕があんなことになってから料理を作っていることも出来なかったんだろう。 心配をかけてしまっていたら、少しだけ心苦しい。 冷蔵庫を覗いてみる。 中身は僕らが家を出る前とさほど変わっていなかった。 でも、やっぱり殺風景に見える。 そこから卵を一つ取り出してぱたりと閉じた。 台所の棚から鍋を引っ張り出す。 久々の感触だった。 「これくらいだったら、食べられるよね」 僕が風邪を引いた時や、身体を崩してしまった時。 ご飯を食べたくないと言っても「食べないと治らない」って何度も母さんに怒られたっけ。 少しでも食べやすいものをと言って、母さんが作ってくれた料理。 一人で作った事なんかなかったけれど、今はスノウの為に作ってあげたかった。 「スノウ。入るよ?」 寝室の前で呼び掛ける。 お盆に載せた小さな鍋からはまだほんのりと温かい熱が伝わってくる。 自分の家なのに妙にドキドキしてしまう。 少しその場で待っていても、返事がない。 恐る恐る扉を開けて覗き込むと、相変わらずベッドに横になるスノウがそこにいた。 「スノウ」 そっと呼びかけると首だけがこちらへ向く。 スノウは若干苦しそうな表情を浮かべていたが、視線が合うなり歯を見せて笑った。 「おお、ホープか。どうした?」 こんな時まで明るく振舞わなくてもいいのに。 傷口が痛むなら素直に痛いと言えばいいのに。 ――その強がりは、誰のためなの? 顔だけを覗かせたまま、ホープはそっと問いかけた。 「お腹、空いてない?」 「んー…まぁ、空いてるっちゃ空いてるな」 包帯で巻かれた身体に視線が行く。 お腹の辺りをさすって膨らみ具合を確認しているスノウ。 あれからちゃんとしたものだって何にも食べていないんだから、 お腹はぺこぺこに空いているはずだ。 スノウは身体だって大きいし、人一倍食べそうだし。 少なくとも作った分くらいは食べてくれるだろうと思って、 ホープはようやく部屋の中に入り、後ろ手で扉を閉めた。 「お粥…作ったんだけど、食べる?」 「マジ!?」 ホープの言葉を聞くなりスノウは飛び起きそうな勢いで声を発した。 反動で上半身が跳ねあがったが、そこは痛みが制して泣く泣く元の体勢に戻る事になった。 ベッドに近づいて近くのテーブルに盆を乗せる。 椅子に腰を下ろしてお粥の入った小さな鍋のふたを開けた。 ふわふわと温かい湯気が漂うと、スノウは鼻をくんくんさせる。 「あ〜…美味そうな匂い」 「普通のお粥だけど…」 「ホープが作ったのか?」 「…美味しくなかったらごめん」 一応味見はした。 味は、まぁまぁだったはず。 頑張って作ったから絶対に食べられないって訳でもないとは思うけど、 もしスノウの口に合わなかったらどうしよう。 そんな不安が過っていたが、目の前の彼は嬉しそうに微笑んだままだった。 「んなことねーよ。 お前が作ってくれたんだ。美味いに決まってるさ」 何を根拠にその言葉が出てくるんだろう。 でも今まで不安だった心が不思議と柔らかくなるような感じがした。 「もう食べる?」 「おう。あったかいうちに食べたほうが美味いだろうしな」 肘をついて自力で起きようとするものだから、ホープは慌てて彼の背中を支えた。 時折傷口を抑えながら歯を食いしばる様子を見ていれば、 まだ身体の負担が大きい事が明らかにわかる。 少しでも楽になってほしくて、枕を腰のあたりに置いて支えにする。 スプーンでお粥を掬うと、まだ湯気が立ち込めていた。 そのままスノウの口元まで運ぶ。 「はい。熱いから気を付けて」 だが、差し出してもスノウは口を開こうとしない。 どうかしたのかと瞳をじっと見つめたまま沈黙が続く。 二人の間に湯気がふわふわと浮かぶ。 「冷ましてくれねぇの?」 「え?」 「ふーふーって」 猫舌なのか何なのかわからないけれど、 突然の強請りにぽっと顔が赤く火照る。 「じ、自分でやればいいでしょ」 「俺、今怪我人なんですけど……あっ、いてて! 傷がいて〜」 いかにもわざとらしく痛みを訴える。 滑稽と言ってしまえばそれまでだけれど、自分を守って怪我をさせてしまったのだから 少しくらい言う事を聞いてあげないとスノウも報われないだろう。 諦めの溜息をついてから、ホープはお粥が乗ったスプーンをそっと口に寄せて息を吹きかけた。 「はい。これでいい?」 「サンキュ」 嬉しそうに微笑んだ後、これでもかというほど口を開けてスプーンが入るのを待つ。 本当に大きい子供みたいだなと思いながらスプーンを差し出すと、 ぱっくりとスノウが咥えこんでお粥を口にした。 こくりと喉が動いて飲み込むのがわかる。 「…ん、すっげー美味い!」 一息ついてからスノウが満面の笑みで言う。 不安だとか疲れだとかそういうものが一気に吹き飛んでしまう様な感覚。 ――こんなに笑顔で食べてくれるんだ。 「ホープ、早く次くれよ」 「う、うん」 スノウに急かされてついつい慌ててスプーンでお粥を掬ってしまう。 口元に運ぶとまたもや強請るような眼差しが向けられるのがわかって、 思い出したようにお粥に息を吹きかけて冷ました。 そうするとスノウは満足そうに笑ってから口を開けて待つ。 何度口にしても美味い美味いと連呼してくれるスノウが嬉しかった。 あっという間に平らげてすっかり空になった鍋。 また作ってくれよと言われたら、作らないわけにはいかなくなってしまう。 こんなに美味しそうに食べてくれるんだったら、もっと色んな料理が作れるようになりたい。 もっとスノウを喜ばせてあげたいという気持ちが知らず知らずのうちに生まれていた。 こうやって誰かの為に何かをしてあげられる事がこんなにも素敵だなんて初めて知った。 積もり積もった負の感情はゆるりと消え去って、 スノウの笑顔が、いつの間にか僕の支えになっていた。 ―――――――――――――――――― パルムポルムのスノウ療養中の妄想。 ホープが思考錯誤しながら作ってあげたら微笑ましいなと。 スノウって好き嫌いなさそうだな。唯一の弱点でプリンとか(笑) あ。でもぷよぷよしてたりもふもふするの好きそうだなぁ〜。苦手なのはネバネバ系? ホープに限らずスノウは「あ〜ん」ってされたりしたりするのが好きそうです。 ベタなシチュエーションが最高に似合うと思います。 TOPへ 戻る