朝日が眩しい。 今日も太陽は穏やかにこの広大な大地を照らしていた。 日が昇ってからまだ幾時も経っていないグラン=パルスはひとときの静けさを保っている。 「そろそろ行くぞ」 ライトニングの呼びかけに一同はゆっくりと腰を上げた。 ぞろぞろと動き出すかと思いきや、ファングがきょろきょろと辺りを見渡して声を張る。 「おいおい、なんか一人足りねぇぞ? …馬鹿でかいヤツが」 「まだ戻ってきていないのか」 ライトニングが溜息をつきながら言葉を洩らす。 確かにいつもの元気印がいない。 ホープは首をかしげながらぽそりと呟いた。 「さっき、顔洗いに行くって言ってましたけど…」 「もしかして、そのまま川原で寝てるんじゃないの〜? 今朝も早かったからさ」 ヴァニラがくすくすと笑いながら言うと、 ライトニングの表情が一層強張る。 「あり得ない話ではないな。 …昨日は随分と話し込んでいたようだが」 ちらりと向けられた視線はサッズに辿りつく。 視線を受けた本人はびくりと肩を震わせて額をぽりぽりと掻いた。 「いやぁ…昨日は夜通し飲んでたことに違いはねぇが…あいつは酒強いだろ? 二日酔いなんてしねぇと思うんだが…」 チョコボが頭上をふわふわと飛びまわり、やがてサッズの頭の中に潜り込んだ。 「ま、そのうち戻ってくるだろうよ…ハハハ」 サッズの乾いた笑いは朝の空気に一瞬にして掻き消され、 その場にはすぐに静けさが戻った。 ホープはちらちらと後ろを見ながら、鼓動が早くなるのを感じていた。 確かにサッズの言うとおり、そのうちへらへらと笑いながら戻ってくるはずだ。 けれど――もしもスノウの身に何かあったら。 スノウが強い事は重々承知しているけれど、 ここグラン=パルスでは常識が通用しないことが起きるかもしれない。 嫌な予感がする。 「…全く、化け物にでも喰われてるんじゃないのか」 ファングの言葉にびくりと身体が震えた。 本当にそんなことになっていたらどうしよう。 眠っている所を襲われたらいくらなんでもスノウだって危ない。 嫌な想像が頭を過ると、いてもたってもいられなくてホープの足が自然と動く。 「ぼ、僕ちょっと見てきます!」 「おい、ホープ!」 皆の呼び掛けに振り返らず、 朝霧が立ちこめる中、ホープは駆け足で川原へと向かった。 最悪の事が起こっているとは信じたくない。 だから、この胸騒ぎを収めるためにスノウに会わなくてはならない。 柔らかい水の音が聞こえてくる。 息を切らしながらホープは周囲を見渡した。 きっとこの辺にいるはずだろう。 「スノウ」 名前を呼んでみる。 けれど返事はない。 声を遮るものは何もないはずなのに、彼の声が耳に届かない。 「スノウ」 呼吸を整えながらもう一度名前を呼ぶ。 若干震える手を握り締めながら、スノウの姿を探す。 あの大きな身体だったら一発で目に着くはずなのに、いつまで隠れているんだよ。 いい歳してかくれんぼしている場合じゃないだろ。 心の中で繰り返し呼び掛ける。 と、岩場にもたれかかる影が目に止まって思わず呼びかけた。 「スノウ…!」 駆け寄ると――それはヴァニラの予言通り。 健康的な身体のまま、すっかり夢の中にいるスノウがそこにいた。 無事でよかったとか、心配をかけないでくれとか、 色んな言葉がホープの頭を過ったが、 目の前の寝顔を見ていると呆れた溜息しか出てこない。 「スノウ、こんなところで寝ないでよ」 岩場に背を預けたまま眠りにつくスノウの肩をゆする。 まるで学校に行かない子供を起こすみたいだと思ってしまう。 ――母さんも、こんな気分だったのかな。 「もう起きて。出発だから」 「ん〜、あと5分…」 呼びかける声が聞こえているのか聞こえていないのか、 スノウは瞼を閉じたまま返事をする。 どれだけ心地よい夢を見ているのだろう。 身体を揺らしてもまだスノウは寝惚けたままで、生返事しかしない。 「皆待ってるから…置いて行っちゃうよ、スノウ」 「んー…」 また一つ、呆れた溜息をついてホープはじっと顔を見つめた。 恐る恐る頬をつついてみる。 ――意外と、柔らかいかも。 それから頬を軽くつねってみる。 ――楽しそうに笑っちゃって。 もう一度力を入れてつねってみる。 「…いてっ……いてて!」 じわじわと襲いかかる衝撃に、 今度こそスノウは飛び起きて頬をさすった。 「やっと起きた」 「…何だ、ホープだったのか」 寝惚け眼を擦り、スノウはにっと歯を見せて笑った。 「やっぱ夢じゃなかったんだな…」 「夢…?」 「ああ。お前が俺の事心配して駆け付けてくれる夢、見てたんだ」 それは夢ではない。 本当の事だ――とは口が裂けても言えない。 どうしてこうもシンクロした事を言うんだろうと、 ホープはきゅっと唇を噛み締めて視線を微かに伏せた。 「何度も俺の名前呼んでくれてさ…なんか嬉しかったんだよな。 だから醒めないでくれ醒めないでくれ!って願ってたんだけどよ…」 目の前のスノウは妙に嬉しそうに語り続けている。 「結局、お前が俺を叩き起こしたわけ。 それにしても、もうちょい手加減してくれてもいいんじゃねぇか?」 本当に寝惚けていただけだろうか。 と疑いたくなったのは嘘ではなかったけれど。 でも、嬉しそうに語っているスノウを見ていると こちらまで心が温かくなっていく気がしてついつい笑みがこぼれる。 「スノウが無事でよかった」 「…ん?」 「な、何でもない。皆待ってるから早く行かなきゃ」 「んだな」 立ち上がると、スノウが手を差し出してくる。 どういう意味かわからなくて首をかしげると、スノウが手を軽く上下させて合図を送った。 ――引っ張り上げろってことだろうか。 こうなったら、この大きな子供はやるまで動かないだろうから、 ホープはしぶしぶ手を差し伸べてスノウの手をぎゅっと握った。 結局は、そのまま軽く手を引いただけでスノウが勝手に腰を上げたのだけれど。 「ありがとな」 そう嬉しそうに笑って頭を撫でてくれるのが嬉しくて、 もう一度、繋いだ手をきゅっと握り締めた。 ――――――――――――――――――― スノウを起こしに行くホープ。 最初は狸寝入りしていたスノウがホープを引きずりこんで一緒に寝る… ということを妄想していたんですが、 そんなことしたらすぐにライト姉さんの見事なツッコミが来てしまったので(←これはこれで好き笑) 今回は比較的穏やかな感じで。 手を繋ぐ二人は可愛くて好きだ。 TOPへ 戻る