「かんぱぁ〜い!」 ヲルバ郷に着いた夜、 家の前の広場で焚き火を囲んだ六人が高々と杯を掲げた。 無事にここまでたどり着いた祝いだと、 ファングが倉庫から幾らかの食料と酒を持ちだしたのだ。 杯を掲げたものの、ホープは目の前の飲み物を口にするのを躊躇っていた。 一体何百年、年季が入ったものだろうかと不安になるのは当たり前だ。 だが、時間が経てば経つほど美味い酒が出来るんだとファングは笑っていた。 そうだとしても、さすがに年月が経ちすぎだろう。 やはりコクーンの常識はグラン=パルスで通用しないものなのだろうか。 そんな事を考えていると「ホープはこれ」とヴァニラからあるものを渡された。 甘い香りのする、透き通った色をした液体だった。 まだ酒が飲める年齢ではないからと、これも同じく倉庫に眠っていたジュースを掘り返したそうだ。 酒にしてもジュースにしても、少しだけ勇気がいる。 だが周囲を見渡せば皆、遠慮なくどんどん飲み物を口にしてわいわいと騒いでいる。 あんなに楽しそうにしているんだろうから、体に悪いことはないんだろう。 「ホープも飲みなよ。このジュース、とっても美味しいんだ」 ヴァニラの楽しそうな笑顔に促されて、ホープはそっとジュースが入った瓶に口を付けた。 甘い、果物の香りがする。 本当に熟成されたような、でもしつこくなくてすうっと馴染んでゆくような心地よい味。 「どう?」 「…美味しい、です」 「でしょ〜? いっぱいあるから遠慮しないで飲んでね」 一口飲めば何てことはない。 普段飲んでいるジュースとそんなに変わりない――むしろこっちの方が美味しかった。 美味しいものを一緒に食べて、飲んで笑っていられる時間。 辛いことなんて何もないほど満たされている仲間たちの空間だった。 星空がゆっくりと回り続けている。 サッズはいつの間にか焚き火の近くでいびきをかいて眠り転がっており、 ヴァニラも部屋に戻って眠っているようだった。 ファングとスノウは未だ酒を飲み続け、ライトニングが呆れたようにその様子を見守っている。 自分はというと――正直、まだ眠くなかったし、 かといって積極的に何かをしようとも思わなかった。 ただ、ありふれたこんな日常をぼんやりと眺めているだけで心が温かくなる気がして。 また一口、ジュースの瓶を口にした。 そろそろ残りも少なかった。 「ホープは酒、飲まねぇのか?」 瓶を振りながらスノウが近寄ってきて、豪快に隣に腰を下ろした。 ファングと飲み続けていたはずなのに、 いきなりこちらに話題を振ってくるものだから思わず驚いてしまう。 目はうつろですっかり酒に酔っているようだ。 でも、べろべろに酔っているわけではないと思う。 普段からスノウは酔っているような人だから――と言ったら怒られるかもしれないけれど。 宴が始まった時からずっと飲み続けていたことを考えれば、 まだこの状態で保っていられるのは相当な強さだと思う。 確実にファングはその上を行っていたが。 「僕、まだお酒飲めないから」 「酒って言ってもジュースみたいなもんだぞ? ほら、飲んでみろよ」 ぐいぐいと酒を差し出してくる。 確かに酒らしい臭さではなくて、甘い香りが漂ってきた。 「おいおいスノウ。あんまりからかってやるなよ」 遠くでファングが野次を飛ばしているのが聞こえた。 「これだからお前はいつまでも子供って言われるんだ」 スノウのさりげない言葉にむっとして、ホープはすかさず酒の瓶を手に取った。 そのまま口にして、体に液体を流し込む。 ――何だ、本当にあんまりジュースと変わらない。 「いきなり飲んで大丈夫か」 「はい。大丈夫です」 心配したライトニングが声をかけると、ホープは穏やかに微笑んだ。 「ははっ、こりゃあ一本取られたな」 空っぽになった瓶を振り、スノウは頭に手を宛てて笑い始めた。 そのうちホープの肩をぽんぽんと叩いて、よくやったなぁと訳のわからない賛辞を送った。 からかっているのかよくわからないけれど、 優しい瞳で見つめてくれることが嬉しくて、無性にドキドキした。 身体が熱くなっているのはお酒の所為? それとも――。 酒の力も相まって、そろそろ眠くなってきた。 まだまだ二人は飲み続けているようだし、 ライトニングも様子を見ていてくれるそうだ。 ふらりと立ち上がって寝床が用意してある建物に向かう。 焚き火はまだ煌々と眩しくて、影がぐんと伸びているのがわかった。 そこに自分とは違う長い影が近づいてくる。 確実に、あの人しかいない。 掴まってたまるものか。 そう思って足早に逃げようとするものの、 後ろからがっと抱きつかれて身動きが取れなくなってしまう。 バランスが取れなくて前に倒れ込むと思いきや、あの大きな体が支えてくれる。 「もうちょっと付き合えよ」 「…僕、もう寝るんです」 腕を振りほどいて歩くと、その手を掴んでスノウが着いてくる。 「んじゃ、ベッドまで送ってやる」 「いいです。まだ飲んでいてください」 でも、その腕をなかなか離してくれなくて、 ホープは仕方なくそのまま建物の中に入った。 決してちゃんとした寝床ではないけれど、 雨風が避けられて、おまけに肌掛けがあれば十分なものだった。 設けられた場所に腰を下ろすと、スノウも一緒に腰を下ろす。 隙間から差し込んでくる焚き火の明かりが、妙に綺麗だった。 そんなことをぼんやりと眺めていると、いきなりスノウが覗き込んでくる。 「ホープ。お前、俺のこと好きなのか?」 「いきなり何言って――」 「なぁ、どうなんだ」 唐突すぎる言葉。 完全に酔っている。 否――目が真剣で酔っているのかわからない。 覗き込んでくる瞳の色が暗闇の中でも澄んでいるのがわかって、 ホープはこくりと喉を鳴らした。 「し、知らない」 「可愛くねぇな。 俺は、お前のこと好きなんだぜ」 「…え?」 本気で言っているのか、冗談で言っているのか。 自分の頭もぼぅっとしている所為で、心臓が高鳴るだけ。 「…どうして」 「どうしてって言われてもなぁ…わかんねぇや」 不意に大きな手のひらが頬に触れた。 黒い手袋は未だに冷たさを保っていて、 熱くなった身体に妙に心地よかった。 そのうち先ほど飲んだ酒がぐるぐると体を巡り始めて、思考回路が狂い始める。 言葉が、知らない間に声になった。 「僕のこと好きなら、何でもできる?」 見上げながら言うとスノウは一瞬目を見開いたが、すぐににやりと笑って見せる。 「ん? ああ、何でもしてやるよ」 「何でも? 恋人同士みたいなことも?」 頬に宛てたままのスノウの手のひらに、 自分の手のひらを重ねて問う。 温もりが、伝わってきて心臓がどくどくと激しく脈打つ。 酒に酔った質問に、スノウは何て答えるだろうか。 そう思いながらじっと見つめていると、 ゆっくりと瞬きをしてから低い声でそっと答えた。 「…ああ」 「…キスだって出来るの?」 冗談交じりで言ってみた。 でも、半分本気だったなんてスノウは知っていただろうか。 真剣な眼差しのまま視線が絡む。 頬にあったスノウの手。 親指が寄せられて、唇をなぞる。 「出来るさ」 自信満々に笑う彼に溜息を零す。 「…馬鹿みたい」 「フッ…俺は元から馬鹿だもんな」 気が付いたら、スノウの顔が目の前にあって、 いつの間にか唇が重なっていた。 最初は触れるだけだったそれは知らない間に深く深く変化する。 甘い酒の匂い。味。 それだけで酔いそうになる。 割り込んできた熱い舌が、想いも熱も思考力も全てを絡め取っていく。 「んっ…ふ…」 駄目だ。 身体がふわふわして、何も考えられない。 自分の身体さえ支え切れなくなって、 ホープはスノウの腕にしがみついた。 呼吸する時間さえ与えてくれない。 でも、かわりに与えてくれる口づけは本当に優しくて、熱くて、 身体の底からぞわぞわと何かを掻き立てる衝動へと変化した。 「…はっ、…ぁ…」 長い長い口づけのあと、肩を上下に揺らしながら呼吸すると、 スノウが優しく頭を撫でた。 「もう、寝る時間だな」 うっすら浮かんだ涙を拭うと、 そう囁いて子供をあやすように額に口づけを落とした。 でも、それで身体に灯る熱が収まったわけじゃない。 「……待って。まだ…」 「…ん?」 僕の身体を熱くしたのは、スノウの所為――。 「責任、取ってよ」 だからその大きな身体を引き寄せて抱きつくと、 一つになった影はそのまま深い闇へと倒れ込んだ。 続 ――――――――――――――――――――― 予想外に長くなったので分割。 スノウはお酒に強い…はず。 ただ、テンションが人一倍上がってしまうだけ。 TOPへ 戻る